ひと休み…


ひと休み・近所のミー坊

我々が幼い頃の遊び場はハチマンさん(八幡神社)であった。時々、そこに鍵屋薬局の肥児丸を売るおじさんが宣伝を兼ねて来ていた。その出で立ちは、薬をぶら下げた番傘を開いて法被の背中に差込み、三味線を弾き歌うのである。「またもー来ました、・・・・・」そして、近寄る子供たちに向かって「坊やプンしたね?」と聞くのである。子供たちが「ん」と答えると動物の形をした片面に色砂糖がついた小さなビスケットをくれるのである。ある時、そのおじさんが近所のミー坊にいつものように「坊やプンしたね?」と尋ねたところ、ミー坊は「今、出かかいよる」と答えた。すると、そのおじさんは「そうね、頑張らんばバイ」と言って、ビスケットを半分だけミー坊に渡した。正直ミー坊とユーモア満点のおじさんの話である。

 

 

 

ふた休み・従兄弟のサトぼん

ハチマンさんでの遊びのひとつに三角ベースボールがあった。ある時、従兄弟のサトぼんが打った球は鳥居を越え、通りを越えて道路沿いの家のガラスを割って中へ入り込んだ大ホームランであった。その家には、刺繍職人のおばあさんが暮らしていたが、サトぼんが割れたガラス越しに恐る恐る覗いて見ると、こちらを向いて倒れていた。そのおばあさんは、単身住まいでその前に亡くなっていたのを偶然にボールが飛び込んで行き発見できたのであった。しかし、その姿が脳裏に焼き付いているサトぼんは、夜、便所にいきたくなったが怖くて家中の電灯を点け「母ちゃん、だいも来んごと見とってバイ」といって便所にはいったそうだ。

 

 

 

もうひと休み・御歯黒

 微かな記憶である。ハチマンさんにおばあさんが住んでいたが、彼女の歯は黒かった。

御歯黒だったのである。鉄さびでつくった塗料で、歯を黒く染めることで、古く上流婦人の間に起こり、室町時代には女子19歳の頃これを成人の印とした。江戸時代以降になると、女性は結婚した印にこの御歯黒をしていた。昔の時代劇の映画では時々御歯黒をした役の女優を見たが、最近のテレビでの時代劇では既婚女性役でも御歯黒をした場面を見なくなった。いくら幼い頃のこととはいえ我々の世代で現実に御歯黒の女性が身近なところに居たことは珍しいことではないだろうか。

 

 

 

 

 

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